Psyは投げられた

若手精神科医が有る事無い事色々つぶやきます。

よくある外傷でも本人にとっては唯一無二の痛み。

動機付け面接勉強会から帰って、次の日は外来でした。

昨日習ったことをすぐに使おうとすると大変で、価値観を掘るとか、一つのことに20分話を進めるというのは結構ハード。やっぱり動機付けの枠を作って練習したいな、と思う。

 

さて、今日はまた多い外傷系の話。(個人を特定しないために病歴は改変しています)

 

30手前の女性、親と同居。軽度知的障害?などと診断をつけられて、「行動化の問題」として引き継がれた女性は、たしかにFIQ60台、でも市役所の勤務が続けられている。ときにODや自傷行為リストカット)が続き、救急車で運ばれることがたまに。特に彼氏やなにかが問題になる、というわけでもなく、職場で人間関係の問題をおこしているわけでもない。ただ不安があってなのか時々爆発するように崩れる。時に記憶がとんで、幻聴も聞こえると。

「私はなににしても中途半端で、知的障害でもないし、かといってバリバリはたらけて結婚できるわけでもないし。私の病気はなんですか?」

ぼくにも最初は正直どうとも言えず、鬱なのか、sなのか、なんなのかと思って種々の薬をいじっていた。理解できるのは、「突如とした感情の爆発、感情調節障害」「眠剤の使用に抵抗性の不眠」「なんか家族とうまくいってなさそう」なこと。

なんだ?このよくわからない疾患は?解離でも話がつかないし、過覚醒といってもフラッシュバックがあるわけでもないし。。。ボーダーラインとも言い難いし、、、うーん?と唸っていた症例でした。

おそらくこういう疾患は、「ボーダーライン」や「うつ状態」「知的障害に付随した注意ひき」などと診断されて、どの精神科疾患にも特異的でない、ややこしい患者、として見られることが多いのだと思います。

 

入院患者の加療を機に、しっかりと外傷の軸を持って見てみると、however, この症例は一種の「典型」のようにみえてきます。感情調節障害と過覚醒などのPTSD症状、および自己評価の低さやそれに付随する多発する自傷行為過食嘔吐病理などから、「複雑性PTSD」「外傷的そだち」らしさがプンプンするのです。

彼女が調子を崩して救急車で運ばれてきたり、ODをしたりするときは決まって家族との関係性が悪くなる時でした。彼女はそういう時、「しんどいから入院させてください」ということも外来であり、それが断られると「うらぎられたかんじ」と主治医を突き放すようなうったえをすることも多いのでした。これは外傷的育ちによくある対人距離の問題、「自分の思う通りにいかないと遠ざける」タイプの心理がはたらいています。

 

「育ちの中でなかなか守ってもらえずに生きてきた」ことを復習し、そこから自尊心が低くなってしまっている、「低自尊心病」の状態だ、ということを説明し、死にたいという気持ちはそこからわいてくることを説明、安全な環境を提供する、という目的のもと外来OTに誘うと、本人はたまに休みつつも定期的に来訪し、それ以降感情の安定が図れるようになります。同時に、入院したい時に「それはしんどいから入院したいというより、家族から離れたいという気持ちだ」と心を見直してもらい(メンタライゼーションと言って良いのかしら)、入院を引き留めるようにすると、それ以降かなり落ち着いて、「しんどいので、セレネース点滴、お願いできますか」とうまく自身の精神を落ち着ける方法を手に入れました。

 

今日は、ひさびさにピンチモードできました。化粧もせず、メガネで、目の表情がない様子は、一見して簡単にピンチモードを匂わせます。

「なんか辛いことあったみたいやね」というと、携帯にメモしてきた事の顛末を読み上げてくれます。解離が起きた事、そして親にその事をバカにされ侮辱された事が書かれています。

解離がおきることも悲しいが、親にそれを侮辱されたことも悲しい、という訴えを整理し、親が同居しつつ精神的な支えに全くなっていない様子を聞き取ります。方向づけとしては、一人暮らしを進めていきたいのですが、「両親に言ってみたら、一人暮らししたらあんた死にそうだからだめって」と、諦め調子。両親に恩義を感じないような状態でも、親の言いつけを聞いてしまう、そういう病状なのです。親に散々振り回されて苦しみながら、それでも親の言う事を守らないと、怖い。そんな状態。

 

彼女の外傷はなんだったのか、実は1年半以上見ていてわかりきってなかったのですが、「小中高といじめられていたのに、ずっと学校にいけと強制された」「逃げ場がなかった」とぽろっと漏らします。

いじめがあったのに、学校にいけと強制されて、学校でも家でも安楽状態にない。

これは本当によくみるタイプの外傷体験ですが、本人にとってはこの幼少期10年間近くの「守られない」生活が、一生心に杭を打つ体験となるのです。

 

 

 

 

 

ここからいかに彼女に一人暮らしを進めていくか、というのが、動機付けの力の見せ所なのかもしれません。

複合精神療法師になりたいのだぞ。