Psyは投げられた

若手精神科医が有る事無い事色々つぶやきます。

比較;PTSD 複雑性PTSD 外傷的育ち 愛着障害 アダルトチルドレン

これまで、最近の精神医学やその周辺で使われる「外傷性の精神障害」について簡単にまとめてきた。

 

これらの概念は一つ一つ大切なのだが、難しいのはお互いがどういう関係性にあるのか、である。比較し、包含関係について探ってみようと思う。

 

成因

PTSD :単一の外傷体験(戦争、災害、レイプなど)

複雑性PTSD :慢性的な外傷体験(政治的監禁 戦争捕虜 家庭内での暴力 継続的性被害 児童虐待など)

・外傷的育ち :幼少期の外傷的養育体験(マークなしミラーリング

愛着障害:親からの虐待(親への両価的な気持ち)+親との離別による脱愛着

アダルトチルドレン :親からの不適切な養育(患者主観的)

 

PTSDが単一の外傷体験を成因としているなかで、女性の家庭における継続的な服従状態、被暴力状態についての症状をまとめたのが複雑性PTSDである。他に監禁や戦争捕虜などの問題も含まれるが、原義的にはハーマンはこの女性の問題を考えていると思われる。児童虐待も述べられているが、メインはおそらく性的虐待を念頭に置いている。

外傷的育ちに特徴的なのは、母親のマークなしミラーリングを挙げている点。子供が感情を見渡す力(メンタライジング力)をつけていく中で、出てきた感情の理由を母親が想像して言語的身体的に返してあげる作業(ミラーリング)に乏しい場合を述べている。ミラーリングはたとえば、お腹が空いている子供が泣いていて、「お腹が空いているんだね」と言いながら食事やミルクを与えてあげる行為。これによって自身の不機嫌が空腹というものによるものだ、という理解を得て、空腹という感情を覚えていく、ということだ。これの繰り返しにて自身の感情を理解して行動を選択していく「行動主体自己」を形成していくのが通常の養育だが、親の状態にて繰り返されない場合(別離、ネグレクト、親の疾患)、子供は感情を見渡せなくなり、種々の病状が出るという。メンタライジング力、という点に状態の成因を寄せているのがこの概念である。

愛着障害においては、幼少期のスキンシップを比較的重要なファクターとしてみている。変わるばんこで母親が抱っこするような養育体制(つまりは頻回の離婚再婚などの養育者変化)を取ると、おとなになってから不安定な愛着パターンになる、という。また「母親が子供の欲求を感じ取る感受性を持ち、それに速やかに応じる応答性」を持っていることが必要であるという(これは外傷的育ちのミラーリングに近い概念だろう)。スキンシップと母親の準備性の備わった状態を、メアリー・エインスワースの提唱する「安全基地」という用語を引用して解説している。反応性愛着障害、脱抑制性愛着障害DSMに載っている概念だが、不安定型愛着障害は人口の1/3にものぼり、親の不在と交替以外に、育ての親の愛着スタイルの伝播、親からの否定的な扱いや評価、親のうつなどを原因としてあげる。

 

アダルトチルドレンについては、現在は「親からの愛情や養育に葛藤、不満を覚えた人が、現在の苦しさを親に起因させる傾向にある人」の自己理解のためのワードとなっている。おそらくは愛着障害にある「親からの否定的な扱いや評価」という点がアダルトチルドレンの成因のメインであり、それに付随して「マークなしミラーリング」、「母親の発達障害ADHDによる振り回し」などが含まれると推察される。(ここは私見

 

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症状

PTSD:過覚醒 侵入 回避

複雑性PTSDPTSD+自尊心の低下 感情調節障害 解離症状

・外傷的育ち :自己承認の問題、見捨てられ恐怖、感情調節障害(実際的には複雑性PTSD,アダルトチルドレン、ボーダーライン人格障害、解離などの症状を包括的に捉えている)

愛着障害:「親との確執、あるいは過度の従順」「愛情や信頼の欠如」「人間関係の距離感異常」「ネガティブな反応」「心身症」「過去への囚われ」「0ー100思考」「細部にこだわる」「発達障害らしい表現系」「依存形成」「道化性」「反社会性」

アダルトチルドレン:完璧主義「いい子」「世話焼き」共依存病理「断れない」問題行動 ボーダーライン特性 摂食障害病理 無関心 引きこもり 虚無 世話焼き 多動傾向? 性的問題、抑鬱傾向、新型うつのような症状など。

 

PTSDは第一次、第二次世界大戦における「戦闘神経症」のようなAcute Stress Disorderのような話から、徐々に家庭に戻った後に引き摺る症状群にフォーカスが置かれるようになって成立してきた。その主な症状は、過覚醒:不眠傾向、侵入:記憶のフラッシュバック、回避:外傷を追想させうる場所に行けない がメインの3症状となっている。

複雑性PTSDでは、もちろんこれらの症状はあるものの、より顕著な症状としてDSO症状 ーーーーー を特徴とする。自傷行為希死念慮などや、対人関係や性的問題、解離症状、自尊心の低さなどがPTSDより顕著である。基本的にはこれらは「慢性的な外傷体験」による「安全地帯の確保不能性」に起因すると考えられている。

外傷的育ちでは複雑性PTSDアダルトチルドレン、ボーダーライン人格障害における諸症状を呈するとし、その3症候群の横断的な3つの根底病理として「自己承認の問題、見捨てられ恐怖、感情調節障害」を挙げる。

愛着障害はその不安定型・回避型愛着スタイルによる各症状を含む形となり、DSMに収載されている「反応性愛着障害、反社会性愛着障害」を含んだより広いスペクトラム概念を考慮している。

アダルトチルドレンは、愛着障害や外傷的育ちにほうがんされるかたちで症状を理解されると良いが、比較的「従順さ」や「世話焼き」と言った承認欲求による障害、「引きこもり、無関心」などのニヒルで回避的な価値観を持つ症状にもフォーカスを向けやすいのが特徴である。

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治療:

PTSD:持続エクスポージャー療法(PE)

複雑性PTSD:安全地帯の確保、外傷体験の放出、再統合

外傷的育ち:メンタライゼーション

愛着障害:安全地帯の確保、愛着の傷の回復、社会的役割を持つ

 

治療に関しては、PTSD、cPTSD,愛着障害において共通することとして、「現在は安全な場所にいると理解して、外傷体験を語り、放出し、その体験があっても自分が今の自分でよい」という経路を辿ることです。

比して、外傷的育ちにおいて紹介されるメンタライゼーションベースドセラピー(mbt)は、治療中は「現在の心を見渡す力」にフォーカスし、「幼少期の重要な人物との関係の反復(外傷体験)」という視点を取り払う。認知行動療法的で、転移は治療者との間や現在の対人関係におけるものを専ら取り扱う。first step では、動機付け面接における第一段階のような「関わるステップ」を進め、second stepで感情の明確化、描写、表出したくない感情を表出させるチャレンジを行う。その後、「今ここで」どういう気持ちが湧いているかの「基本的メンタライジング」、本人の鋳型のような考えた方に当てはめていく「解釈型メンタライジング」を行う。

 

 

総括:

 PTSD、cPTSDに関しては、外傷体験の他者説明性が出来る明確な外傷体験。cPTSDはより慢性的で症状が多岐(わかりやすく言えばヒステリーや解離なども起こし得る)

 愛着障害は別離、虐待、叱責などを基とした愛着パターンの異常による問題。治療は上3つにている。

 外傷的育ちは親の問題によって感情を見渡せない状態を理解する治療者支援者向けの言葉。感情を見渡すメタ認知的アプローチを基としたメンタライゼーションを進め、過去の外傷体験はあえて着目はしない。

 アダルトチルドレンは自分の苦しみを親に投影する本人向けの言葉。背景は4病態と共有する。