Psyは投げられた

若手精神科医が有る事無い事色々つぶやきます。

外傷的育ちと愛着障害

アダルトチルドレン複雑性PTSDという呼称、診断名が盛り上がる中で、さらに最近一部の精神科医やカウンセラーに認知されてきている概念「外傷的育ち」についても少しまとめてみる。

 

外傷的育ち、というのは、崔が2016年に発表した書籍「メンタライゼーションでガイドする外傷的育ちの克服」にて初めて概念として提唱される。

 

メンタライゼーションでガイドする外傷的育ちの克服

メンタライゼーションでガイドする外傷的育ちの克服

 

 

 

外傷的育ちとは、子供の頃に虐待(身体的、心理的、性的、ネグレクト)を受けた経験や、それに加えて過度な支配や制限、自主性の剥奪や従属の強制、外傷になるような離別、死別などの「心や脳にダメージを与える」養育体験を得たため、影響が出ている症例であると崔。 崔が本の中で最初にとりあげる症例は、激しい喧嘩をする両親が4歳の時に離婚、母に連れられたものの6歳の時に父方の祖父母に連れ去るように養育者が変わり育つ中で、母は1年に1度3日間だけ帰ってきて一緒に過ごす、という生活を過ごした女性。父からは甘えと暴力の繰り返しで、16歳で家を飛び出し、母の元に行くと自分とほとんど同じ名前の娘が居て、その後解離状態で飛び出し、2年後の18歳に初診としてかかる、というエピソードだ。

外傷となる育ちのせいで、心、脳にダメージを受け、結果大人になった頃に「自己評価の低さ」や「自己感情の度外視」などの心理行動特徴を持つようになることを崔は指摘し、感情コントロールと親への心理を目的としたアプローチである「メンタライゼーション」を推進するのがこの書籍のメインどころである。

メンタライゼーションは、フロイトが自ら破棄した外傷起源説(トラウマの話の最初の方に出てきています)を端に発しており、「自身や他者の言動行為には、背景になる心理状態がある、意味がある行為だと理解する」手法である。FonagyとBatemanによって確立されたこの方法は、BPDに対しての治療効果が高いとエビデンスが出始めている治療法である。

 

外傷的育ちに関連する3つの状態像として、崔は「境界性パーソナリティ障害(BPD)」「複雑性PTSD(cPTSD)」「アダルトチルドレン(AC)」の3疾病概念をとりあげる。この3つは「感情調節障害(BPDに特徴的)」「見捨てられ恐怖(BPD/cPTSD)」「自己承認の病理(AC)」を基軸として起きている問題である、と考える。

 

 

この概念と近いものは、おそらく岡田尊司の書籍で有名な「愛着障害」だろう

 

愛着障害 子ども時代を引きずる人々 (光文社新書)

愛着障害 子ども時代を引きずる人々 (光文社新書)

 

愛着障害は、より幼児期の母親と子供の関係性(愛着)の中に青年期の葛藤の根を探すような印象だ。愛着対象がいなくなる時、つまり母親との死別や離別、それと愛着対象からの虐待によるambivalenceを愛着障害の2パターンとして置く。その結果出てくるのが境界性パーソナリティや依存症、過食症であると岡田は述べる。また、岡田は「草食系男子」や結婚に踏み切れない人の増加も、愛着回避型の愛着障害であると指摘する。

 

愛着障害の特徴として書かれるのは、「親との確執、あるいは過度の従順」「愛情や信頼の欠如」「人間関係の距離感異常」「ネガティブな反応」「心身症」「過去への囚われ」「0ー100思考」「細部にこだわる」「発達障害らしい表現系」「依存形成」「道化性」「反社会性」などがある。程度の差はあるものの、これはBPDやACに言われるタイプとよく似た症候である。

 

幼少期の愛着という、一番精神分析的なアプローチをとっているにもかかわらず、精神分析はBPDを悪くするという定説からこの本では治療法として「安全地帯の確保」「外傷体験の放出」「再統合」を述べており、この3つはハーマンが複雑性PTSDを提唱した「心的外傷と回復」の中に書く3つのステップと酷似している。

 

 

次の記事では、今まで述べてきたPTSD複雑性PTSDアダルトチルドレン、外傷的育ち、愛着障害のそれぞれの定義、起因、包含関係などを詳しく考えていきたい。