Psyは投げられた

若手精神科医が有る事無い事色々つぶやきます。

低自尊心病

「自分は、自分で良い。」

そう思える人は、かなり幸せな人だなぁ、と、臨床をしていると思う。精神科患者は、自尊心を保てず、自己実現ができない人が多くを占めているのだ(ほぼ全てといっても良いかもしれない)。

特に「脳の病気」と言い切れないような病気の類、例えば近代的なうつとか、衝動性のつよいパーソナリティ障害とか、摂食障害とか。私はぶっちゃけると、そういう人の診察に、共感して診察が長くなってしまっている、かもしれない。(「脳の病気」については、また後日)

 

「自分は何をやってもダメだ」「どうせ何かしても人に叱られたり、目に付いたりするだけだ」「文句なしに通してくれることなんて何もない。何か言われて、自分は縮こまってしまう」そういう思いに左右されて、自身の行動を制御している人は、次第に「周りに合わせて行動を選択する」ばかりの自分に苦しむ。

 

例えば、よくある症例としてはこんなものがある。

「幼少期、母親は非常に感情的に自分を叱りつけ、自分の行動はいつも母親の顔色を伺いながらのものであった。親の言う通りのことをしなかったら体罰やご飯抜きは当然だったし、母や父の思惑を察するのに常に注意集中を割いていた。周りの感情を荒げないように自分の行動を律することに精一杯だった。成人して、一人暮らしをしようにも母は自分の元に置いておこうとし、就職を機に一人暮らしをしても、結局は折に触れて母や父が自身の行動に口を出してくる。職場でも自分が周りに嫌われないように、必死に仕事を引き受けたり、自分が損を食うような行動をしている結果、「結局私が我慢すればいいんでしょ」と思うようになった。結果、職場に行く気力がなくなり、苦しさのみが募って、抑うつ気味になった。一人で過ごしていて、実家から距離を取っている限りではある程度落ち着いて過ごせるのだが、実家から連絡が入って何かアクションを起こされると、すぐにパニックになり、気分変調をきたす」

親が過剰な管理を施すと、そのルールに則る上で、適応能力を伸ばす子供もいる。しかし代わりに自尊心を育めず、抑うつ、アルコール依存、摂食障害などを生む、というのが、私見である。

 

 

幼少期に親の顔色を伺って行動する、と言うことが非常に問題なのは、実はむかしから指摘されていることである。アダルトチルドレンという言葉がはやったことがあった。これはもともと、アルコール依存症の親から生まれた子供が抱える特有の悩みを指した言葉だ。アルコール依存症の父母が機嫌を悪くすると、子供は容易にその癇癪や時には家庭内暴力の対象となり、それを防ぐために必死に親を怒らせないような行動をする。同様の行動を社会の中でもするようになるが、「他者の感情に合わせて行動する」ことが頭にしみこんでしまっているため、「自分のしたいこと」を優先できず・あるいは「自分のしたいこと」が分からない状態になってしまう。結果として、周囲の環境に容易に自身の感情を左右されるようになるし、パートナーはやはり「合わせて行動するべき起伏のある感情」を持つ人を選びがちになるし、最終的には自身のストレス解消をアルコールに頼ってしまう結果になることも多く、両親同様に依存症に走ってしまうことも多い、という概念である。

 

しかし、このアダルトチルドレンの病理は、何もアルコールに限った話ではなく、「感情的で振り回す」親の下に生まれた子供には共通するものであり、それが「うつ病」や「境界性パーソナリティ障害」、「摂食障害」という病名で治療されていることもたくさんあるのである。

 

 

 

 

最近ではこの概念を、いわくら病院の崔先生が「外傷的育ち」という言葉でまとめ、その治療法や本人の精神力動についても理解できるように説明してくれている。

親への確執やくるしみを抱えている人には、是非読んでほしい1冊である。

 

メンタライゼーションでガイドする外傷的育ちの克服

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